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大阪地方裁判所 昭和29年(行)97号 判決

原告 中井末一 外三名

被告 大阪府知事・庄内町長・庄内町議会・大阪府会

主文

原告等の訴は、いずれも之を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

原告等訴訟代理人は、「(一)原告中井末一、同大村一平と被告大阪府知事、同大阪府会、同庄内町議会との間に、原告岩崎繁男と被告大阪府知事、同大阪府会、同庄内町議会、同庄内町長との間に、又原告井原林一郎と被告大阪府知事、同大阪府会との間において、それぞれ被告庄内町長が、昭和二九年一一月二二日被告庄内町議会に提案した議案第三八号(合併申請に関する件)、同第三九号(合併に伴う財産処分に関する件)についての決議は、未成立であることを確認する。(二)被告大阪府知事同大阪府会は、被告大阪府会が昭和二九年一二月一一日、被告知事の提案によりなした、第一八号議案(豊能郡庄内町を廃し、その区域を豊中市に編入する件)、の議決は、無効であることを確認する。(三)訴訟費用は、被告等の負担とする。」との判決を求め、被告等訴訟代理人等は、いずれも、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求めた。

第二、原告等の主張

一、請求原因

(一)  原告等は、いずれも、もと大阪府豊能郡庄内町(現在は豊中市に編入)の住民であり、且つ被告(昭和二九年(行)第八七号、同年(行)第九七号事件の被告。以下同じ)庄内町議会の議員たるの地位にあつたものであるが、右庄内町においては、昭和二九年一一月二二日開催された被告庄内町議会において、被告(昭和二九年(行)第九七号事件の被告、以下同じ)庄内町長が提案した庄内町を豊中市に合併することを内容とする議案(議案第三八号、同第三九号、以下両議案を併せて第一の議案と称する)が有効に議決されたものとして合併手続を進め、大阪府においては、同年十二月十一日開催された被告大阪府会において、被告大阪府知事が提案した庄内町を豊中市に編入することを内容とする議案(議案第一八号、以下第二議案と称する)が可決された。そして被告知事は同年一二月一五日これを内閣総理大臣に届出で、内閣総理大臣においてこれを受理し、同年一二月二七日告示第一一三号を以て、庄内町を廃し、その区域を豊中市に編入する旨を告示し、昭和三〇年一月一日より実施されることとなつた。しかしながら、(一) 被告庄内町議会における右合併議案は、いまだ議決されていないか、仮に議決されたとしても無効である。即ち、(1) 被告庄内町議会の臨時会々議録(以下会議録と称する)にも、被告町議会は、昭和二九年一一月二二日開会された臨時議会において、一旦休憩後、議長は、一六時四二分に議会を再開する旨を告げ、第一議案に賛成の議員の起立を求め、起立者多数として、同議案が可決された旨を告げ、一六時四三分閉会を宣した旨記載されているけれども、大阪府豊能郡庄内町は、かねて町長及び町議員町民大多数の意思により、大阪市と合併すべき方針を決定し、その実現に努力していたが、その後、昭和二九年八月に至り、右方針を無視し、庄内町を豊中市に合併すべきことを企図する一部議員により、合併に関する委員会が結成されるに及んで、被告町長も之に応じ、庄内町を豊中市に合併するの案を同委員会に提出し、遂には、町民約九割の反対にもかゝわらず、これを実現せんとして、昭和二九年一一月二二日、被告町議会を招集した。ところが右議会開催の当日、右豊中市との合併に反対する町民約二〇〇〇名が傍聴のため議場に押しかけ、同議会が、被告町長の提案した前記第一の議案の審議に入らんとするや俄かに騒ぎ出し、中には、議席内に乱入する者もあつて、議場は混乱したため、議長は一旦休憩を宣し、程なく再開したところ、被告町長が出席しなかつたので、原告大村が、未だ着席さえしていなかつた議長に対し、これを糺問せんとしたとき、再び、前記傍聴人が騒ぎ出し、またまた議場は騒然となつたため、右議案に賛成派議員の大半は、難を免れるために自席を立つて議場の裏手にあつた警官詰所に逃げ込み、同時に待機していた数十名の警察官が議場に侵入して整理に当り、会議はそのまま流会となり、議案開示賛否計数の暇がなかつたのである。即ち地方自治法第一二〇条に基き設けられた庄内町議会々議規則(以下会議規則と称する)第四七条第一項には、「議長は、表決を採ろうとするときは、表決に付する問題を宣告しなければならない。」と規定し、また第四八条第一項は、「表決は議題について可とするものを挙手又は起立させて、その数を算定し、可否の宣告をする。」と規定しているから、これを被告庄内町議会が前記の第一の議案を議決する場合に当てはめてみるに、議長は先ず、「議案第三八号合併申請に関する件、豊能郡庄内町を廃し、その区域を昭和三〇年一月一日から豊中市に編入することを大阪府知事に申請するものとする。議案第三九号合併に伴う財産処分に関する件、豊能郡庄内町を廃し、その区域が豊中市に編入された場合、庄内町の財産は全部豊中市に帰属させるものとする。」と宣告した上、賛成議員の挙手又は起立を求め、その数を算定し、然る後、右議案について可否の宣告をしなければならない筈であつたところ、右議案を採決するときには、議場には、前記の如く、憤激した多数の反対派町民が騒ぎ立てており、その場に臨んだ議員の中には、或いはこの険悪な空気に影響されて、たとえその直前に開かれた委員会においては賛成の意思を表明していても、本会議に於ては、その意思を翻し、反対の意思を表明する議員がでたかもしれないのであるから、議長には、右議案に対する可否それぞれの表決数算定に当り、通常の場合にもまして一段と慎重さが要求されていたので、右手続を忠実に履践するためには、少くとも五分以上を要すべきところ、会議は再開後僅か一分間で終了したのであるから、適式な議決がされた筈はなく、前記議案はいまだ議決されるに至らなかつたものである。

(2) 仮りに議決されたものとしても、(イ)それは会議招集場所と異つた場所に開かれた町議員の私的集会ともいうべき集会の議決であつて、正規の町議会の議決ではない。即ち、右議案審議のための被告庄内町議会の臨時議会は、被告町長において招集日時昭和二九年一一月二二日十時、招集場所庄内町役場とする旨の告示をしたにもかゝわらず、右同所においては開会されることなく、何ら議場変更の議決を経ずして、突然議場を庄内小学校講堂に変更し、同議会は同所において開催されたのであるが、右の議場変更の処置は、地方自治法第一〇一条、一〇二条に定める地方公共団体の議会の招集手続、並びに、同法第一一五条に定むる会議公開の原則に違反するものであつて、これにより右小学校で開かれた会議は、適法な町議会とはいえないから、ここにおいてなされた、前記決議は無効である。

(ロ) 仮にそうでないとしても、右議決は被告町議会の会議規則に定めた手続に違反するものである。即ち、右議決は前記会議規則第四七条第一項、第四八条第一項に定められた手続を履践せず、議長は単に「採決します。賛成の人は起立。」と言つたのみで、賛否の数も算定せずして退場し、更に又、右規則第四八条第二項後段には、「議長は、一人の異議もないときは、可決を宣告することが出来る。」旨定めているが、右議決の場合は、表決に際し、原告等を含めた六名の議員が異議を唱えていたのであるから、直ちに可決とはなし得ず更に同規則第四九条に則り、投票の方法により表決させねばならなかつたにも拘らず、この手続がとられていないのであるから、右議決はこの点においても同規則に違反している。而して、地方自治法が、地方公共団体の議会に設けられた会議規則を重視し、その遵守を強く要求していることは、同法第一七六条の規定より明かであるから、この趣旨より見れば、同規則違反の議決は無効である。

(ハ) (原告岩崎、同井原の予備的請求原因)また、被告大阪府知事は、被告庄内町議会が右の議決をなすに先立ち、地方自治法第八条の二に基づいて、庄内町の廃置分合に関する勧告をなすべきであるにも拘らず、右議決は、これなくしてなされたものであるから、無効のものというべきである。

(二)  次に被告大阪府会における議決は、左記の理由により無効である。即ち、右府会における被告大阪府知事の提案は、被告庄内町議会における前記第一の議案に関する議決が有効に存在しないのにも拘らず、これが有効に存在するものとしてなされた違法な提案であり、被告府会は、かゝる違法提案に基いて議決すべきでないにも拘らず、これを適法な提案として、合併当事者である庄内町の合併決議が有効に存在するものとして議決を為したのであるから、被告府会の右議決もまた無効たらざるを得ない。

(三)  原告等は、いずれも前述した様に、被告庄内町議会の議員であり、当時月額八〇〇〇円の報酬並びに実費弁償を得ていたが、その任期(昭和二六年五月一日より同三〇年四月三〇日まで)満了前たる昭和三〇年一月一日、庄内町が豊中市と合併したため、議員としての任期を約四ケ月残した侭、合併と同時にその資格を喪失したものであるから、右合併が無効と判断され庄内町が復活するにおいては、原告も当然、被告庄内町議会の議員たるの資格を回復し得るので、原告等は本訴において右合併の効力を争うにつき確認の利益を有する。よつて本訴に及ぶ。

二、被告等の答弁、抗弁に対する原告の主張

(一)  原告等の町会議員の任期は、正常の場合においては昭和三〇年四月三〇日までであるが、本件合併により右任期は未了となつたので、合併が無効となれば議員資格を回復するものである。けだし、地方自治法第九三条は、普通地方公共団体の議会の議員の任期は四年とする旨定め、日時の期限を以つては規定していないし、議員たるの資格は、議会の存在を前提として、はじめて考え得ることであるから、任期の満了前に生じた合併は、一の障害として、任期は所謂中断状態に入ることゝなるのであり、従つて合併が無効と判断され議会が復活して障害事由が消滅すれば、中断された任期の残期間が進行するものと考えられるからである。そして原告等の本訴請求の目的たる利益は、単なる報酬実費の損害賠償請求に在るのではない。

(二)  被告等(被告府会を除く)は、普通地方公共団体の長には、議会を招集するに当り、会議の場所を定める権限はないと主張するが、凡そ議場の定めなくしては、議員の参集が不可能なことは明らかであるから、右主張は理由がない。

(三)  被告府会は、行政事件訴訟特例法第一一条の趣旨に則り、本訴請求は棄却されるべきであると主張するけれども、右条項は行政庁の処分の存在を前提とするものであるから、被告庄内町会の議決の未成立であることの確認を求めることを主旨とする本訴請求については、右条項を適用する余地はない。また、被告府会における議決の無効確認を求める請求についても、庄内町の観点からいえば、むしろこれを認容することが、庄内町を豊中市に非ずして大阪市への合併の途を開く意味において、同町民数十年来にわたる願望に副うこととなり、(庄内町を復活するについては若干の手数は要するも、決して被告主張の様な困難な問題は生じない。)公共の福祉に合致することゝなるものである。これに反しもし町民の意思を無視した豊中市への合併が確定されるならば、豊中市行政の円滑なる運営を望むことは到底不可能となる。それ故被告の右抗弁は理由がない。

第三、被告大阪府知事、同庄内町議会、同庄内町長の答弁及び抗弁

(一)  原告等主張の事実中、原告等が、もと庄内町の住民であり、且つ、庄内町議会の議員であつたこと、被告庄内町議会に原告等主張の議会々議規則があつたこと、庄内町の豊中市合併についての被告町議会の議決があつたものとして被告大阪府会が昭和二九年一二月一一日原告等主張の第二議案を議決したこと、被告知事が同年一二月一五日庄内町廃止、豊中市編入を内閣総理大臣に届出でたこと、内閣総理大臣が同年一二月二七日その実施を告示したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  原告等はいずれも、もと庄内町議会の議員たるの資格に基き本訴を提起しているが、凡そ本件の様に、訴によつて、議会の議決の無効ないし不存在を求め得る者は、その議決の結果につき、法律上直接の利害関係を有する者に限られるべきところ、原告等が、右議決の結果議員資格を喪失したとしても、その結果は、右議決との関係においては間接的なものに外ならないから、本訴提起につき原告たるの適格を有しない。

仮りに原告等が、もと議員たるの資格を有していたことを根拠として、法律上直接の利害関係があるとしても、その議員たるの地位は、昭和三〇年四月三〇日に任期の満了をもつて、消滅したのであるから、右同日をもつて、本件確認の訴を維持する利益を欠くことゝなり、結局本訴の原告たる適格を欠くものである。

(三)  原告主張の第一議案の決議は有効に存在する。

(イ)  庄内町は、昭和二九年八月一〇日から、同年一一月二二日に至るまで、豊中市との合併につき各種の委員会を開催し、その可否について綿密な討議を行つた後、これを可とする旨の結論を得たので、原告主張の第一議案審議のため、昭和二九年一一月二二日に開かれた町議会において、右議案を慎重に審議した上、同日一六時四二分議長は、議員に対し、起立の方法によつて、その賛否を問うた処、賛成者多数(一九名)により、これが可決を宣したものであつて、その事実は庄内町議会々議録にも記載されているところである。

(ロ)  原告等は、右議決は僅かに一分間の中には、なされ得ないと主張し、右会議録は虚偽の事実を記載したものであると言うけれども、およそ議会の議決なるものは、瞬時に行われるものであるから、それが一分以内になされようとも何等怪しむに足らないのであり、時には議員自身ですら、裁決の結果を知らない様なこともおこり得るのであるから、原告の右主張は理由がない。

(ハ)  また原告等は、右決議はその手続面に於いて、庄内町議会々議規則第四七条第一項、第四八条第一項に違反したものであると主張するが、右規則第四七条にいう「問題の宣告」とは、必ずしも議長に対し、原告の主張する様に、議案の文言を詳細に述べることを、要求しているものではなく、議員に対しこれより如何なる議案につき表決がなされんとしているかを周知せしめ得る程度の告知をもつて足るものと解すべきであるところ、前記議案の表決に先立ち、議長は、右議案についての「討論を打切り、只今より表決に移ります。」と述べたことは、前記会議録によつても明らかであるから、議員は、当時如何なる議案の表決がなされんとしていたかを充分に了知していた筈であり、規則違反はない。

また、右規則によれば、議案の表決方法として、第四八條第一項に挙手又は、起立の方法、同条第二項に簡易なる方法、第四九条に投票の方法の三方法を規定し、そのいずれの方法を採るかは、議長の決定に委ねられているが、議長は通常の議題については、右規則第四八条第一項の方法たる挙手又は起立の方法によることとし、比較的軽易なる議題と思われるものについては、同条第二項によつて先ず異議の有無を問い、議員に一人の異議もない場合に限り、即時可決を宣し得べく、若し異議あるときは、更めて右第一項の挙手、又は起立の方法によるか、或いは投票の方法によるかを決定すべきものとしているのであるから、議長においてその表決を起立の方法によつて求めた前記第一議案の場合にあつては、その表決方法については議員は異議を述べることは許されないのであつて仮りに小数の議員において異議を唱えていたとしても、議長がこれを無視して、表決し、可決を宣したことは、何ら非難されるべき点はない。従つて、右決議の手続が前記会議規則に違反したとの原告等の主張は理由がない。

(ニ)  次に、原告等は、昭和二九年一一月二二日に開催された被告庄内町議会は、その招集手続に示された場所以外で行われた正規の議会でないから、前記決議は無効であると主張するが、普通地方公共団体の長がなす議会招集のための告示に必要とする事項は、招集日と審議すべき議案だけであつて、長にはその場所を定めるまでの権限はない。招集とは、全議員に対し一定の日時に一定の目的のために集合すべきことを求め、これによつて自主的行為能力のない閉会中の議会に対し、その能力を附与するために行われるものであり、開会の前提をなすものに過ぎないから、地方自治法第一〇一条、一〇二条においても、招集の場所に関しては、何等規定していないのである。従つて、今仮りに、長において議会招集の場所を指定したとしても、それは議員参集の場所を意味し、会議の場所としての拘束力を持つものではない。このことは、例えば、大阪府会の招集告示には、「地方自治法第一〇一条の規定によつて、昭和何年何月何日、大阪府定例議会を招集する。」とあつて、場所の明示はなく、更に国会のそれには、「日本国憲法第七条及び第五二条並びに国会法第一条及び第二条によつて、昭和何年何月何日、国会の常会を東京に招集する。」とあつて、これまた場所につき、具体的な明示をしていないことによつても明かである。従つて、被告町長の指定した庄内町役場なる場所は招集の場所であり、会議の場所としての意味をもつものではない。それ故、過半数の議員が、告示に示された場所に参集する事によつて、その招集行為は終了しその後の議会の運営(会議の場所、開会の時間等)は、当然議員の参集により自主的行為能力を得た議会自らが、これを決定すべきものであり、地方自治法第一〇二条第六項も右の趣旨を規定したものである。しかしながら議会の開会に先立ち緊急な事態が発生し、議会において議決するいとまのない場合には、議長においてこれを決定するの権限があるものと解せざるを得ないが、今本件の場合について考えてみるに、前記会議当日、会議開催に先立ち、庄内町役場には、千数百名の傍聴者がつめかけたので、議長は同日の会議で審議される第一議案の重大性にかんがみ、約三〇名程の傍聴席しかない庄内町役場の議場(通常の会議場所)において議会を開くことはただいたづらに議場を混乱に導くばかりで不適当であると考えたので、全議員が招集に応じた後その了承のもとに、右役場に隣接する庄内小学校講堂を議場に充てることとし、同講堂において議会を開くこととなつたものであつて、議長の執つたこの処置は、右に述べた事情の下においては、極めて妥当なものであり何ら非難を受ける筋合はない。

仮りに右処置が許されないものであるとしても、開会後、これに対し異議を述べる議員なく、議事がとゞこおりなく進行し、閉会に至つた事実よりみて、右処置に対しては、開会直後、議会において爾後承認があつたものとみるべきである。

また仮りに、議会の招集につき長において定めた場所が、開会の場所として議会を拘束するとしても、やむを得ない緊急事態が発生し、指定場所における会議の開催が不能又は不当となつた様な場合に於ては、議会は時宜に応じて議場を変更することを得るものと解すべきであるところ、前記日時における議会の議場変更については、右に述べた様な緊急事態が生じていたものであるから、右の処置は非難さるべきものではない。

また、議会開催の場所たる庄内小学校は、その招集場所たる庄内町役場に隣接しており、議会が町役場より遥に広大な右小学校講堂において開かれるように変更されたことは、町民に洩れなくこれを徹底せしめたのであつて、その事実は当日右議会の傍聴者が千数百名に達したことよりみても明らかであるから、右場所の変更が原告が主張する様に右会議の公開を阻害し、地方自治法に違反した様な事実は全く存しない。

(四)  原告主張の第二議案の議決は有効である。

右にのべた如く、第一議案は、被告町議会において、有効に議決されたものであるから、之に基ずき為した、被告大阪府知事の第二議案の提案、及び之を可決した被告大阪府会の議決は有効であり、何らその無効原因たる事実は存しない。

第四被告大阪府会の答弁及び抗弁

(一)  原告等主張の事実中、原告等がいずれも、もと庄内町の住民であり、且庄内町議会の議員であつたこと、庄内町議会に原告等主張の議会々議規則があつたこと、庄内町の豊中市合併についての庄内町議会の議決があつたものとして被告府会が、昭和二九年一二月一一日、原告等主張の第二議案を議決したこと、大阪府知事がこれを内閣総理大臣に届出たこと、内閣において原告等主張の如き告示をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  原告等は、いづれも被告町議会の議員としての資格に基ずき、本訴を提起したと主張しているが、原告等の右議員の任期は、昭和三〇年四月三〇日を以て満了し、仮に本件合併がなかつたとしても、同日限りでその資格を喪失したものであるから、元議員であることを前提とする本訴請求は、過去の権利関係の確認を求めるに帰し、確認の利益がない。

(三)  仮りに原告等が本訴を維持し得べき法律上の利益を有するとしても、原告等主張の第一議案の議決は、有効に存在する。即ち、

(イ)  昭和二九年一一月一九日、当時の庄内町長中山辰太郎は原告等主張の第一議案を審議するため、同町議会の臨時議会を同月二二日午前十時庄内町役場に招集する旨告示したので、右日時に、議員二六名が、右議場に出席したところ、多数の傍聴者が押しかけたので、右議場で議会を開会しては、傍聴者の大多数が入場できないことゝなるため、議長は、右議場から約一〇〇米を隔てた距離にあり、且多数の傍聴者を収容しうる庄内小学校講堂に於て議会を開く旨を告知し、右変更後の議場に全議員(二六名)が出席し、同日一二時二六分開会後直ちに第一議案を上程し慎重審議の結果、同日一六時四二分議長小山を除く議員二五名中、賛成一九名の絶対多数を以て右議案を可決し、一六時四三分議長閉会を宜し終了したものであつて採決所要時間である一分間内に起立者の数を読むことは可能であり、その数を読んだ上可決を宣したもので、右の事実は、当日の会議録の記載によつても明らかである。(議場は、会議録の記載要件ではないから、右議会の議場たる庄内小学校の記載がなくとも会議録も何等無効となるものではない。)

原告等は、右議会は混乱状態のうちに流会となつたと主張するけれども、右に述べた如く、同議会は長時間に亘る審議の結果議員疲労により一旦休憩し、一六時四二分再会直後、採決したものであつて、この間議場が混乱状態におちいる様な間隙はなかつたものであり、たゞ右閉会後、反対派の議員及び傍聴者の一部において、退場の際、椅子を押倒す等の暴行に出でた者があつたに過ぎない。又庄内町議会議長のとつた右議場変更の処置は、多数町民をして、右議会の傍聴を可能ならしむるために執られたものであつて、町民の希望に副つた適切な処置であつたのみならず、議会が開催された庄内小学校講堂は、その運動場をへだてて、庄内町役場に隣接し、且つ、多数傍聴者のもとに、重要議案を審議する議場としては、誠に適当な場所であつたから(この事実は、会議当日多数町民が同講堂において、傍聴した事実からみても明らかである。)議長に於ける右処置は、むしろ会議公開の原則に適従したものでこそあれ、何ら違法として非難をうくべきものではない。従つて、前記議会が公開の原則に違反して開催されたとの、原告の主張は真実に沿わないものである。

(ロ)  次に原告主張の会議規則第四七条第一項の規定は、開会せらるる単位議会において、多数の議案を審議且つ、議決する場合に於て、一の議案を誤つて他の議案と混同し、表決するが如き事態の発生せんことを防止するため、議長に対し、その表決に付すべき議案の明示を要求している趣旨のものであるところ、前記日時に開かれた、被告町議会においては、本件第一議案のみが上程されたものであるから、その表決に際し、議員において右議案を他と混同する虞は全く存しなかつたものであり、従つて、右の様な場合においては、仮りに議長が議案の明示をしなかつたとしても、その一事を捉えて右規則に違反したと云うことはできない。

(ハ)  次に、地方自治法第八条の二に基ずく都道府県知事の勧告は、当該知事の所謂裁量権限に属する事項であつて、それが市町村合併の要件であるとは到底考えるを得ないから、原告のこの点についての主張も理由がない。

(四)  原告等主張の第二議案の議決は有効である。

右に述べた如く、原告等主張の第一議案は、被告町議会に於て有効に議決されたものであるから、右議決の存在を前提としてなした被告大阪府知事の第二議案の提案、及びこれを可決した被告大阪府会の議決は有効であり、何らその無効原因たる事実は存しない。

(五)  仮りに原告等主張の第一議案の議決が有効に存在せず、第二議案の議決が無効であつたとしても、以下述べる事由により、本訴請求は棄却されるべきである。

即ち、政府は、昭和二八年法律第二八五号町村合併促進法を制定公布し、町村の合併により、その組織及び運営を合理的、能率的ならしめ、住民の福祉を増進するように町村の規模の適正化を図ることを積極的に促進し来つたことは顕著な事実であつて、町村合併の適否、並びにその遅速は、公共の福祉に重大な関係があると言わねばならないところ本件合併の有効、無効が、旧庄内町及び豊中市の住民全体の利害に重大な影響を及ぼすことは云うまでもないから、若し、仮りに右合併が、無効と判断されるならば、今日までその有効たることを前提として為し来つた豊中市の諸施策は悉く無為に帰し、公共の福祉に反する結果となることは明らかである。

そして、原告等が本訴において右合併の効力を争う利益は、議員資格の喪失に基くたかだか月額八千円の報酬実費弁済を受ける権利喪失の損害填補をその実質とするものに過ぎないから、本件合併の議決について、仮に原告主張の如き多少の瑕疵が存したとしても、原告等の救済は損害賠償の権利を認めることによつて事足るべく、合併そのものの効力を争うことを目的とする本訴請求は行政事件訴訟特例法第一一条第一項の趣旨に則り、棄却せらるべきである。

第五証拠関係〈省略〉

理由

原告等主張の事実中、原告等がもと庄内町の住民であり、且つ、庄内町議会の議員であつたこと、庄内町を豊中市に合併すること(それに附随する財産処分を含む)を内容とする原告主張の第一議案につき被告庄内町議会の議決があつたものとして合併手続が進められ、被告大阪府会が昭和二九年一二月一一日、原告主張の第二議案を議決し被告大阪府知事が同年一二月一五日これを内閣総理大臣に届出で内閣総理大臣においてこれを受理して同年一二月二十七日、右の合併の決定実施(昭和三〇年一月一日より)を告示したことは、各当事者間に争いがない。

しかしながら、本訴は左のいずれの理由によるも失当である。

一、原告等が本訴において争訟の対象とする被告庄内町議会及び被告大阪府会の各議決の存在乃至効力は、行政訴訟の対象とすることを許さない。

即ち、原告等が本訴提起の目的とするところは、窮極において庄内町の豊中市への合併(正確には庄内町を廃して、その区域を豊中市へ編入すること)の効力を否定しようとするに在ることは、原告等主張の全趣旨に徴して明白に認められるのであるが、かかる市町村の合併手続の経過は、地方自治法第七条の規定に明規されている通り、先ず当該合併関係市町村が合併とこれに伴う財産処分方法(これについては相手市町村と協議する)を、当該市町村の議会の議決を経て決定した上、各々都道府県知事にその旨を申請し、知事は当該都道府県の議会の議決を経た上右合併を決定し、これを内閣総理大臣に届け出で、内閣総理大臣において右届出を受理し、その旨を告示することにより、右告示を以て効力を生ずるものとされ、右一連の行政手続を大別すると、合併当事者たる関係市町村の合併申請行為、関係都道府県知事の合併決定行為、内閣総理大臣の承認(届出受理)と公示行為の三段階に分れるけれども、そのうち合併市町村の議会の合併についての議決は、合併当事者としてその申請をなすべきか否かを定める当該市町村の内部的意思決定に過ぎないし、都道府県の議会の議決もまた右合併当事者よりの申請に基き都道府県知事において合併の決定をなすについて、これに関与するための意思を決する内部的手続に外ならず、いずれも当該地方公共団体(行政庁)の行為として直接外部に対して効力を有するものではなく、議決の存否それ自体は何人に対しても、権利義務乃至は法律関係の変動を与えるものと考えることはできないから、地方公共団体の真実の意思決定が存在せず、或は当該意思決定の手続又は内容に瑕疵があるにもかかわらず、それが執行機関によつて外部に表示され、個人の具体的な権利義務又は法律関係に変動を生じた場合において、外部に表示された行政処分自体の違法を争うことは格別、議決自体は、それが行政庁の内部的意思決定にとゞまらず、執行機関によるその執行を要しないで、直接個人に対し法律効果を生ずる場合(議会における議員の除名決議等)、或は、法律に特に出訴を許す旨の規定がある場合(地方自治法第一七六条第五項第七項、参照)等を除いては、それを訴訟の対象として、その未成立(それが全く不存在であるとの意であるとすれば議決の不存在確認訴訟を当該議決機関を被告として提起するはそれ自身背理であり、厳密にいえば訴訟の目的を欠くものであるともいえる。)乃至は無効の確認を求めるに適しないものといわねばならない。そして前記のような一連の合併手続の構造において、これによつて生じた合併の効力そのものを争うためには、右の諸手続中の如何なる行為を対象となすべきかは必ずしも明確であるとはいえないが、そのうちの特定の行為について特に出訴を許した法規も見当らないから、少くとも、原告等が本訴においてその存在ないし効力を争わんとする被告庄内町議会及び被告大阪府会の各議決の如き、単に行政庁の内部的意思決定としての性質を有するに止まるものについては、行政訴訟としての対象となすことは許されないことは極めて明白である。

二、原告等が本訴請求については訴の利益を欠く。

即ち原告等が、本訴に於て、被告等の行為の存在、効力を争うための訴訟の当事者たり得るがためには原告等自身が右行政行為の是正につき具体的な訴の利益を有することが必要であると解されるところ、原告等が、昭和二六年五月一日から同三〇年四月三〇日迄の満四ケ年を任期として選出せられた庄内町議会の議員であることは、原告等の自認するところであるから、昭和三〇年四月三〇日をもつて、原告等は、右議員たるの資格を喪失したことに帰し、結局、現にその資格を有せず、又本訴の結果如何にかかわらずこれを回復する余地のないことが明らかである。

尤も右の点について、原告等は、地方自治法第九三条は地方公共団体の議会の議員の任期は四年とすると規定し、日時をもつてこれを規定していないから、原告等の議員たるの任期は、正常の場合には昭和三〇年四月三〇日を以つて満了すべきも、本件合併による町議会の消滅という障害即ち中断事由によつては、任期は、一時その進行を停止しているに過ぎないから、本訴の結果により、後日、右町議会が復活した場合においては、任期の残存期間中、原告等は議員資格を回復する余地があり、本訴提起につき法律上の利益を有すると主張するが、右地方自治法の規定が任期を定むるにつき、期間をもつてしている理由は、各地方公共団体の議会の議員の任期の起算日は、当然一定である筈はないから、右法文中において議員の任期を時日をもつて確定することは不可能事に属するからに外ならないものであつて、これがために右規定の趣旨が、原告等主張の如き任期の中断又は進行停止なるものを予期して、その議員の実質的活動の期間としてこれを定めたものであると解することはできない。試みに地方公共団体の合併による議会の消滅と、議員の任期との関係を、原告等主張の如く解するときは、合併は常に原告のいわゆる中断事由に過ぎないから、当該合併が有効である場合に於てさえも、尚且つ、消滅議会の議員の任期は合併によつて一旦その進行を停止するものと考えざるを得ず、しかるときは、右任期の進行停止は、永久的なものとなるが、議会の消滅による議員資格の消滅と別個に、かかる観念を認める実益乃至必要はどこにも見出すことが出来ないから、合併を原因とする議会消滅による議員資格の喪失は、矢張りその資格の絶対的消滅原因であつて、単なる中断乃至停止原因ではないと考えなければならない。合併の効力が否定されても、その回復がおくれ、残存任期が経過しても、それは偶然に支配される単なる事実問題に外ならず、これをそのまま法律制度的救済として採り上げる訳には行かない。(これを要するに、合併が有効ならば残存期間というものは有り得ず合併が当初より無効となれば、本来任期の中断、停止というものは有り得なかつた筈である。)よつて原告等の右主張は採用するに由ないものである。

そうすれば原告等は、本件訴訟の結果により救済されるとする議員資格を当然取得する余地がないとの理由で、訴訟の目的について直接の具体的利益を有しないこととなるが、さらに右議員資格より生ずべき報酬、実費弁償の請求権と本訴との関係につき考察すると、元来行政処分の効力を争う行政訴訟は、当該処分の効力自体を確定することが主旨であり、それがためにその処分をなした行政主体たる行政庁をその相手方とすることが認められているのであるから、単に行政処分の効力の存否を前提とするもの、即ち、行政処分の効力の確定と直接的な関係にたたない特定の権利行使の先決問題として、右行政処分自体の効力を争う訴訟(いわゆる先決問題の訴訟)は法に特別の規定ある場合(例えば砂防法第四四条、河川法第六一条等参照)のほかは認められない(このことは具体的な権利関係の訴訟-本件にあつては報酬等請求の訴訟-が現に係属していると否とを問わない。)ものと解され、このことは、当該行政処分が単に取消し得べきものであるに止まらず当然無効の場合といえども同様に妥当するものと考えられるから、本件に於て、原告等が議員としての報酬等の請求権行使の前提として、前記議決の不存在乃至は無効を争う法律上の利益もまた存在しないものといわなければならない。

三、本訴請求はその理由がない。

次に本訴請求の当否につき判断を加えることとし、(1) 先ず原告等主張の第一議案の議決が成立したものであるか否かについて考えてみるに、証人浦矢金太郎、同小林留吉、同山本昇二、同幡本敏雄、同小林タミ、同岸岡敬三、同中原繁次郎の各証言と原告大村一平本人尋問の結果とを綜合すると、庄内町においては、昭和二九年一一月二二日、原告等主張の町議会を開くに先立ち、先ず庄内小学校講堂に於て、町会議員の全員をもつて構成する合併委員会を開催し、同委員会に於て、庄内町を豊中市に合併する議案の審議をなし、引続き同所に於て、前記議案審議のため町議会を開催したものであるところ、かねてより庄内町と豊中市との合併に反対し、同町と大阪市との合併を望んでいた同町の住民多数が右委員会並びに議会の審議を傍聴しようとして早朝より庄内小学校の講堂に押しかけ、審議の途上に於て、或は野次をとばし、或は委員席や議員席に割込んで騒ぎたてたので、会議はしばしば混乱状態に陥り、議事の円満な進行を図ることは非常に困難であつたが、本件採決は右の状況の下に議長小山弥三郎によつて開始されたこと、そして議長が右採決に入るや否や、反対派議員たる大村一平(原告)が演壇の前に進み出て、右採決開始に抗議の発言を試みたことが認められ成立に争のない乙第一号証(庄内町臨時議会会議録)、丙第一号証の二(大阪府会総務常任員会速記録第二号)の第三〇頁以下、庄内町議会議長小山弥三郎の発言記載部分と証人幡本敏雄、同上杉猪早雄、同山本昇二、同中原繁次郎の各証言及び証人小林タミの証言の一部を綜合すると、議長小山は前同日午後四時四十二分頃、休憩中の会議の再開を宣するや否や、直ちに本件議案第三八号、第三九号につき採決を為す旨を告げ、前記大村議員の抗議を無視して賛成者を起立に問う旨を告げ、賛成議員の起立を認めるや議場の喧騒の裡に素早く、賛成十九として可決を宣言し、忽ちこれに抗議すべく演壇に殺到した反対派の議員や傍聴人の襲撃を避けるため、賛成派議員と共に早急に議場より退去したことを認めるに足り、証人浦矢金太郎、同小林留吉は証言として、右認定に反して、「議長は各議員が着席する前即ち総員起立中に、開会を宣し、採決を起立の方法によつてとろうとしたものであるから、賛否の数は判明すべくものなく、採決は未了である」旨供述し、また前掲丙第一号証の二中(同書第六〇頁)、庄内町議会議員大村一平発言の部分には、「議長は採決にとりかかり、起立をねがいますというのと同時に議員はほとんど議場におらなかつた」旨の供述記載があるけれども、右はいずれも前記各証拠に対比して到底措信し難く、また右認定に反する証人岸岡敬三、森本秀子、小林タミの各証言は、本件採決が前記認定の如き喧騒の議場において極めて短時間内に行われたこと、これを見聞した関係人たる右証人等においてもその判断が少からず冷静を欠いていたであろうことが右認定事実より容易に推測し得ることに徴すれば、右証人等の証言が、強ち、すべて虚構であるとまではいえないとしても、少くとも当時の客観的事実を正確に把握して、これを如実に表現しているものとは認めることはできないから、結局措信し難いものというの外はない。また前掲乙第一号証によれば、右町議会は右同日午後四時四十三分閉会となつたことが認められ、従つて採決所要時間は約一分間であつたことが認められるが、平常熟知の議員総数僅か二六名の右議会の表決手続において、賛成者十九名を計数し、これを約一分で完了せしめることは必ずしも不能のこととはいい難く、従つて、この点において、右採決の事実を虚偽であるとすることもできないから、右所要時間僅少の事実を以てしても前記認定を左右するに足りない。従つて、庄内町議会における本件合併議案の採決は完了し、議決は成立したものと認めざるを得ない。そうすれば、原告等の右議決は未成立であるとする主張は理由がない。

(2) 次に右議決が、原告等主張の如く、無効であるものか否かについて考察することとする。

(イ)  先ず、原告等は、右議決の無効原因として、前記庄内町議会はその招集の告示に示された場所に於て開催されたものでないから、右は招集手続に違背したもので、町議員の私的集会とも云うべきものであつて、そこに於てなされた議決は、正規の町議会の議決たり得ないから、無効のものであると主張するので、按ずるに、普通地方公共団体の議会は、議員の過半数が、定められた招集日時に招集場所に参集し、議長、副議長が存在することによつて、会議体として自ら活動能力を取得するに至り、それ以後に於ては、議会自ら議場の変更をなすことは、もとより可能(地方自治法第一〇二条第六項)であると解すべきところ、前掲乙第一号証によれば、本件庄内町議会は、第五回庄内町議会臨時会として、昭和二十九年十一月十九日の告示により、同月二十二日午前十時庄内町役場に招集せられたことが明白であるところ、証人山本昇二(但し、後記措信し難い部分を除く)、同中井兵二、同中原繁次郎、同上杉猪早雄の各証言によれば、右会議招集の当日たる昭和二九年一一月二二日には、本会議に先立ち、同日午前九時より合併全体委員会の開催が予定されていたので、右時刻頃には町議員(兼全体委員会委員)の全部が右委員会開催場所であり、且つ本会議の招集場所たる庄内町役場の二階に参集したところ、これを傍聴に来た町民の一部及び議員の一部の者から同所は傍聴人を多数収容するためには狭隘であるから、会議の場所を、より多数の傍聴人を収容できる場所に変更するようにとの要望があつたので、委員長山本昇二は、その議場を右町役場に近接し、かつこれより遥かに多数人員を収容し得る庄内小学校に変更すべき旨を提案し、全議員異議なく、右提案に応じて庄内小学校講堂に移動し、同所を議場として、先ず合併委員会を開会し、その終了後引続き同日午後零時半頃より同所において、小山弥三郎を議長として本会議を開会したこと、同所における本会議の開会には、全議員より何等の異議も提起せられなかつたことを認め得べく、右本会議即ち町議会の議場を、右小学校に変更することにつき、町議会としても特にその旨の議決手続を経ていることの点については、たやすく措信し難い証人山本昇二の証言を除いては、これを徴するに足る証拠がないから、右の議場変更の議決手続はなかつたものといわざるを得ないが、前認定の如き事実の経緯に徴するときは、全体委員会と、これに引続き開催せらるべき本会議とは、その構成員は事実上同一であるから、右本会議の議場変更決議の欠缺は、同一構成員が再度同趣旨の決議をなすことを省略した場合と結果において同じく、右の瑕疵は、その本会議即ち本件庄内町議会のなした本件議案の議決を、当然無効ならしめる重大なものとは到底解することはできない。いわんや、この瑕疵をもつて、議会の長による招集行為が存しないにも拘らず、議員が擅に参集して開催された集会即ち原告主張の如き私的集会、或は招集権限の無いものによつて招集された議会の如く、到底、正規の議会としての活動を容認することが出来ない様な、高度の瑕疵と同視し得ないから、これを理由とする原告等の議決無効の主張は、理由がない。

次に原告等主張の会議公開の原則違反の点について考えるに右の町議会は、前認定のとおり一千名以上の多数町民関係者の傍聴、立会の下に公開されて行われたものであるのみならず、前記議場変更の処置は、専らその傍聴を欲する町民の収容数の増加を目的としてなされたものであることは、前認定の事実経緯によつて明白であるから、右議場の変更が、会議公開の原則に違反したとの原告等の主張も採用し難く、右議場変更の処置について議決の無効を来すべき違法の点を見出すことはできない。

(ロ)  次に、原告等主張の庄内町議会会議規則違反の点について按ずるに、右規則第四七条第一項には「議長は、表決を採ろうとするときは、表決に付する問題を宣告しなければならない」と規定し、又第四八条第一項には「表決は、議題について可とするものを挙手又は起立させて、その数を算定し、可否の宣告をする。」同第二項には「議長は、軽易なる議題については、先ず異議の有無を問い、一人の異議もない場合に限り、可決を宣告することができる」夫々規定されていることは当事者間に争いがなく、又前段認定事実によれば、庄内町議会の議長は、本件議案の表決に際し、附議問題の表示としては、「議案第三八号、議案第三九号」と述べた丈であつて、議案の文言を正確にのべていないことは明らかであるが、右規則にいうところの「問題の宣告」とは、議案の文言を、遂一正確に述べることを要求しているものではなく、議員に対し、これより如何なる議案につき表決がなされんとしているかを、周知せしめ得る程度の告知をもつて足る(右議会に於ける議案は、右の二案のみであつたことは前掲乙第一号証の記載に徴し、明らかであるから、議員にとつて採決議案の混同のおそれはない筈である)ものと解せられるから右の点において、前記会議規則違反の廉は見出し難いし、又右表決に際し、議長が賛成者起立の方法によつて、その表決を求めたことは、前記規則第四八条第一項に則つてしたものであつて、同第二項の簡易なる方法によつたものではないと解するのが正当であり、議員は、右採決の方法につき、何ら異議を述べることはできない場合に該当するから、この点に於いて、右採決の方法が、右会議規則に違反するとの原告等の主張は理由がない。

(ハ)  最後に、原告岩崎、同井原の予備的請求原因たる地方自治法第八条の二違反の主張につき按ずるに、同法条に規定する市町村の廃置分合についての都道府県知事の勧告は、あくまで当該市町村に対し、合併を考慮すべき旨の勧告たるに留まり、これを市町村合併の要件とは到底考えるを得ないから、前記、庄内町議会の議決が、知事の右勧告なくしてなされたとしても、それは何ら無効のものということはできない。

如上認定の如く、前記庄内町議会の合併議決について、これを無効とする原告等の請求は、すべてその理由がない。

(ニ)  進んで、大阪府会における原告等主張の第二議案の議決の効力を争う原告等の請求につき審案するに、前記庄内町議会の本件第一議案の議決が有効に存在することが前段認定の通りである以上は、被告大阪府会及び大阪府知事においてこれを有効なものとして取扱わねばならないことは論を俟たないから、右被告等の取扱には何等の違法はない。よつて被告大阪府会、同大阪府知事に対する原告等の請求も又失当である。

而して、庄内町議会の前記合併決議、並びに大阪府会の右決議が、その効力を保持している以上、庄内町と豊中市との合併手続については、何ら瑕疵のないものといわなければならないから、原告等において、右議決等の無効確認を求めることにより、窮極において、庄内町と豊中市との合併の効力を否定せんとすることが本訴請求の主旨であるとしても、その請求は、理由がないものといわなければならない。

四、そうすれば、本訴は以上何れの理由によつても失当であつて、排斥を免れないが、当裁判所は、右第一の理由によつて、原告等の本訴を不適法として、これを却下することとし、訴訟費用につき、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川種一郎 松本保三 右田堯雄)

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